より良い流通の姿を求めて…

 2024~28年度の4年間を期間敏、日本学術振興会 科学研究費補助金の採択を受け、「卸売市場制度改革は水産物流通をどう変えたか:主体間関係と取引パフォーマンスの検証」の調査・研究に取り組んでいます。


<背景と目的>

 生鮮食料品の流通は、卸売市場法(その前身の中央卸売市場法の制定・公布は1923年)に基づき地方自治体等によって管理・運営される全国の卸売市場を集散拠点にその相互のネットワーク=卸売市場流通チャネルが中心的な役割を担ってきました。約1世紀にわたり、公正・公平な価格形成や効率的な集散の実現など生鮮食料品流通政策の基軸に卸売市場流通が位置づけられてきたと言えます。実際、1971年の現・卸売市場法への改正以降をみても、70年代末から80年代初頭にかけて水産物の卸売市場経由率は85%を占めます。ところが、川上(生産)・川下(小売・外食)の担い手の大型化や物流条件の変化、輸入生鮮品の増加など流通・取引環境がドラスティックに変容するなかで、卸売市場を経由しない“市場外流通”の増加がみられ、卸売市場流通はそのプレゼンスを急速に弱め(水産物の市場経由率は2017年度以降50%を割り込むまでに低下)、その過程では卸・仲卸など市場の担い手の経営悪化や市場総体の機能低下が指摘されるようになっています。

 こうした閉塞感を打破するため、政府は1999年と2004年に卸売市場制度の改正を行いましたが、その後も状況は好転せず、縮小再編基調から抜け出せずにありました。そんな中(規制改革推進会議の提言を端緒に制度改革講義が急進し)2018年には従前の原則・骨格規定の大幅な改廃を伴う卸売市場法の抜本的な改正が行われました。これは、法制度と市場の実務・実態にあわせる追認的な改正ではあるものの、改正前に83条で構成された同法は、改正後19条を残すまでに簡素化されており、かつての卸売市場法の姿はそこにはありません。この改正では、従前、国が定めた卸売市場整備基本方針や同計画の策定廃止のほか、中央卸売市場の開設許可を民間に拡げる、取引関連規定は遵守事項のみを画一的ルールとして残し、第三者販売や直荷引き等のその他取引関連規定の要否は各市場判断に委ねるなど、従前とは趣が大きく異なる改革が行われています。当然ながら、その規制緩和は、各市場あるいはその担い手(卸・仲卸等)が地域の流通事情に応じて柔軟に事業を展開できる素地を与え、パフォーマンスや経営の改善を促す契機となることも期待される反面、市場と市場外、卸と仲卸の間の境界が希薄化する(あるいはなくなる)結果、その競争が市場流通内部(卸対仲卸など)に向かえば市場業者の淘汰とさらなる経営不振・信用悪化等を誘発することも想定されるなど、制度改革が卸売市場流通をどう変えた(変える)のか注目されます。この研究は、卸売市場制度改革の成果と課題を、水産物、とくに鮮魚をめぐる取引主体間の関係やパフォーマンスに注目して検討することが狙いです。


<各種調査活動の主な記録>

・2025年3月14日 関東の大手食品SM D社で水産物仕入等に関して、同卸E社で市場流通の近況に係る聞き取り調査を実施

・2024年8月20日 全国の中央卸売市場(水産・青果)38開設者自治体を対象に郵送調査実施(締切9/10)

  ※「2018年市場法改正に伴う条例の見直し対応とその後の中央卸売市場の状況に関する調査」

  ※調査票の最終到着は10月末、その後回答内容の確認・調整を行い、それが全て終了したのは12月

・2024年8月10日 関東の大手食品SM C社にて水産物仕入等に係る聞き取り調査を実施(以後、メール・TELで継続調査)

・2024年8月9日 市場流通に関わる業界団体B(全国連)および所管省庁で改正卸売市場関連の聞き取り調査を実施

・2024年7月23日 市場流通に関わる業界団体A(全国連)および流通関連企業で改正卸売市場法関連の聞き取り調査を実施

・2024年7月7日~17日 開設者宛郵送調査に係る調査票のプレテスト(某中央卸売市場開設者に協力依頼)


<研究成果の公表等>

・「2018年市場法改正に伴う条例の見直し対応とその後の中央卸売市場の状況に関する調査」(集計結果概要)作成・配信

  ※回答いただいた38開設自治体への結果概要通知のための報告書(2024年12月)

・地域漁業学会第66回大会(2024年11月10日、東京海洋大学)にて「量販店による水産物販売と消費地市場仕入の位置・関係性―なぜ消費地市場(業者)は「取引の柔軟性」で高評を得るのか―」というテーマで研究発表実施


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